対談内容

スカイパーフェクト放映番組(Ch.216 ベターライフチャンネル)より掲載

平成22年4月より毎週金曜日20時30分~21時00分の30分「名医が明かす眼瞼けいれん・顔面けいれん」が放映されています。
番組の趣旨は情報不足で苦悩する全国の患者さん達にこの病気の症状、原因、治療法などを知らせることです。ホームページには6月4日放映の井上眼科病院 院長若倉雅登先生と当患者会の代表東海林雅子の対談番組を掲載しております。
なお、読みやすいように症状編治療編今後編と3回に分けております。


スカパー放映番組から
2010年6月4日放映

眼瞼けいれん、片側顔面けいれんで
お悩みの患者さんたちへ(1)

医療法人 井上眼科病院院長 若倉雅登 先生 
眼瞼・顔面けいれん友の会 代表 東海林雅子


 
若倉先生と友の会東海林雅子代表
 

症状編

治療編 | 今後編

若倉:眼瞼けいれんという病気は、まばたきがうまくいかなくなったり、目の開け閉めが自由自在にいかなくなる病気です。
そのような運動面での問題とそれに付随して目の周りにまぶしいとか痛い、しぶいなどいろいろな違和感が出ます。また、さらにもう一つは精神的に非常につらいという三つの要素がある非常に厳しい病気です。

眼瞼けいれんという、けいれんという文字が付いているのは、もともとは、1910年ごろにメイジュさんというフランスの精神科の先生が自分の精神病院に、精神的には別に異常がないけれど目をつぶったままで目の周りの筋肉、表情筋をぴくぴくさせているだけの人がいるという臨床例を最初に見つけたのが始まりなので、眼瞼けいれんという病名がついたのです。
また、別の病気で顔面けいれんというのがございますが、この顔面けいれんというのは、いわゆる顔面神経、これは、目をつぶったり笑ったり、あるいは、口をあけたり閉じたりという時に動かす筋肉を支配している運動神経ですが、その神経が勝手に興奮することによって片方のほっぺたとか目の周りがぴくぴくするという病気です。これは、文字通りぴくぴくしているので顔面けいれんという言葉は、そのまま当てはまります。どちらも非常に自由がきかないのでうっとうしい、つらいということだと思います。

東海林さんは、眼瞼けいれんの患者さんでいらっしゃるのですが、その病気の最初の頃は、どのような状況が出て、どのようにつらかったのでしょうか。

東海林:いつの間にかまばたきが多くなっていました。そのうちにまばたきがひどくなり、目が開かない、人にぶつかる、物にぶつかる、光がまぶしい、そして顔を洗ったあとにつける化粧水が目にしみるなどの症状が出てきました。

目が開かないというのは、まぶたが開かないのです。接着剤でくっつけてしまったように瞼が開かないんです。さらにだんだんひどくなりまして、外を歩くこともできなくなり、買い物もできなくなりました。家の台所でも、例えば、野菜を切っている途中で、手が止まってしまうので、家族が「どうしたの?」と聞くのですが、私の後ろから聞いているので私が目が開かなくて手が止まっているということがわからなかったのです。

「細かいことをくよくよと悩んだりして神経質だからそのようになるのだよ」などと言われましたが、症状はひどくなる一方でした。

若倉:お家の方が素人の方だから症状がわからないというのは当然ですが、眼科医とかお医者さんでもこの病気や症状のことを診断できる先生は比較的少ないです。

東海林さんはどのような訴えを持って、どのような診断を受けていらっしゃるか、教えていただけますか。

東海林:私は、医者に行くまでの間は、人にも会いたくないし気持ちは鬱うつとしていましたけれど、目に症状が出ていましたので眼科で有名と言われる大学病院に行きました。

そして、目に関するあらゆる検査を受けましたが、眼科の先生から「目に異常はないので、脳内科の検査を受けるように」と言われ、同じ病院内の脳内科を紹介されました。

脳内科では、先生に「ここをまっすぐ歩けますか」とか腕を医療器具で触られて「感じますか」と聞かれたりしましたので、私自身、脳腫瘍を疑われているのかなと思いました。

診察の結果、他の病気の症状は、出ませんでしたので、先生から「眼瞼麻痺でしょう。その治療には、毒素を注射するという方法がありますが注射をしますか」と聞かれたのですが、初めて聞く毒素という言葉に怖くなって「様子を見ます」と返事を致しました。

「それでは、薬をだしておきましょう。それで様子をみましょう」ということになり、その後、一カ月後、二カ月後と診察に通いましたが、脳内科でしたので目の検査は一切なく、ただ日常を訴えるだけでした。

何回か通いましたが、注射をすることも、病院に通うこともやめてしまいました。しかし、症状がますますひどくなっていきました。

そのようなとき、ある新聞にこの眼瞼けいれんについて、男性の顔写真と症状が詳しく載っていまして、それを見て「私は、眼瞼けいれんだ」と自分で決めて、その新聞にありました病院へ電話をして、若倉先生にお会いしました。
 


治療編

症状編 | 今後編

若倉:確かに、いきなり毒素と言われるとびっくりしてしまうわけですが、実は、そのボツリヌス毒素というものは、ボツリヌス菌という黴菌(ばいきん)が作った物質を製剤化してお薬にして、その麻酔効果を上手に利用したお薬です。

そのお薬は、どういうことをやるかというと瞼の周囲に少しずつ注射して目をつぶる筋肉を弱めて、まぶたをつぶりにくくするので、目が開けやすくなる。

この病気は、脳の中で目を開けなさいという命令がうまく来ないという病気ですから、その命令が弱くてもその注射をしておけば目を開けるのが楽になるということを利用したものです。
昔は、全く治療法がないという時代が長かったので、これは画期的な治療法だといえます。

毒素から作った薬と言われますが量が少ないので副作用が出るとしても目の周りだけの局所的な違和感みたいなものです。しかし、長期間扱っていますが、安全性の高いお薬です。

それを東海林さんは、定期的にどのくらいの割合で治療していますか。

東海林:はい、3ヵ月半から4か月くらいです。

若倉:その間の状態は、いかがですか

東海林:注射と注射の間は、その時によって違うのですが、まぶしいという症状が出てきたり、まばたきが多くなったりもしますが、私は、治療前は、症状がかなり重かったので、その時のような重い症状は、全く出ません。
 

若倉:そのボツリヌス菌毒素、商品名をボトックスと言いますが初めてその注射をしたときは、かなり勇気が要ったと思いますが、どんな気持ちでしたか。

東海林:初めては、やはり怖かったので家族が付き添ってきました。

先ほど先生がおっしゃっていたようなつっぱり感とか目の周りがこわばり、自分自身で表情を動かせず、笑顔もぎこちなくなったなどがありました。

でも、これで治ると思っていましたので、我慢しました。何回か注射をしているうちに自然に表情も出来るようになりました。
 

若倉:東海林さんは、治るかなと頑張ったとおっしゃいましたが、医者の立場からするとこの薬を病気が治ると思って受けてもらうと困る面があります。

この薬は、病気の対症療法であって、病気を治す治療薬ではない。

対症療法というのは、病気は治らないけれど、日常の生活のつらい状態を少しでも改善させようとする目的なんです。

私は、いつも60点か70点狙いでいって下さいと患者さんには言っているのですが、そのことをよく知らないでこの注射を受けると全然治らないという不満でまた、お医者さんを転々とするという患者さんがいるので、その点は追加しとこうと思います。
 

東海林:治ると思って来られても困るとおっしゃっていることは、全治がまだないということですね。

患者の会で多くの患者さんにお会いしたり、話をお聞きしていると、症状の重い人は、軽くなったと言われますが、しかし、軽い人は逆に注射をした後の違和感の方を強くおっしゃるように感じます。
 

若倉:なるほど、それは、症例にもよりますし、やはり軽い人は、期待度も大きいそしてその違和感は、一時的には自分の症状よりも強く出ると言うのがあるので、そうなのかなと思いますが私は、あまり重症になるまで治療しないというよりは、比較的軽いうちからこの注射に慣れていく方が得策ではないかなあと考えています。 


今後編

症状編 | 治療編

若倉:ボツリヌス治療に対しての問題点は、他にございますか。

東海林:はい、私の最初の頃のようにこれが病気だということや病名が分からないという方が沢山いらっしゃると思います。

診察に行っても他の診療科に回されたりして、あちこち転々としている人たちが沢山いらっしゃるので、この病気がよくなる方法があるということを広く知らせたいと思います。

次に治療費が最初のうちは、高かったことがあると思います。治るならよいのですが人によっては、3カ月、また人によっては、6カ月、7カ月などと間隔を置きながらずっと注射を続けていかなくてはならないために、保険で最初は3万円くらいかかっていましたので、これは、皆さん大変だっただろうなと思いました。

また、この治療ができる病院が少ないので、遠くから、例えば九州とか大阪からいらっしゃる方々は、交通費もかかるので、大変なことだなと思いました。
 

若倉:そうですね。友の会も活動して、今、その3割負担の3万円がだいぶ安くなりましたね。

東海林:はい、有り難いことです。私自身もこの治療は、今後も続けていき、安定していけると思っています。

ただ、この治療のできるお医者さまが少ないことで、何カ月も前から予約をして、それでもボトックス治療の当日は、大勢の患者さんがいらっしゃってるし、先生は一人一人の患者さんに時間をかけて、ゆっくりと診察なさるので待ち時間がかります。

時間をかけて下さることは、大変有り難いことなので、もっと多くの病院や先生方がこの治療がお出来になるとよいなと思います。
 

若倉:この病気に対して、造詣の深い先生をもっと沢山増やさなくてはいけないということも私の使命だと思います。

たとえば、多くの患者さんはドライアイと言われていて、ドライアイの治療をしていてもちっとも治らないという人が沢山埋もれていらっしゃるのですね。

まだまだ見つかっていない人が10倍も20倍も、私は、日本には、だいたい50万人から100万人くらいの患者さんがいらっしゃると思うのですが、今、見つかっている患者さんは、せいぜい3,4万人ということでまだまだこの病気が十分に理解されていないということは、確かに大問題だなと思っています。

東海林:私がこの病気ではないかと自分自身でわかったのは、10年ほど前の新聞記事からでした。

私たちも今、新聞や雑誌などから取材を受けてこの病気のことが掲載されると、やはり全国の患者さんから自分は、この病気ではないかと問い合わせをいただきます。

私たち患者会では、最近ホームページも立ち上げましたので、そこに掲載している病気の症状をご覧になったある方から「もしかしたら私は、この病気ではないか。やっとここにたどり着きました」とご連絡をいただきました。

また、毎年、患者会を開催して、私たちは、この病気のことを知らせ、お互いに助け合う役割があるかなと思っています。

若倉:うん。治療としてのボトックスというものの他にも遮光レンズとか瞼の部分を抑えるクラッチメガネを通してうまく対処していくとか、何よりも大切なのは、この病気を良く理解していただいて、ぱっと治る病気ではないのでうまく付き合っていくという覚悟を決めていただきたいです。

それからこの病気があると非常につらい、全身的にも抑鬱(よくうつ)感がでたりするのですが、自分のメンタル面をうまくコントロールするということもとても大切な要素になってきます。

医療側がそのようなこと全てを上手にマネージングしてくれるようなシステムを作らなくては、いけないのですが、その点は、残念ながらまだまだ未熟だと思っています。

患者さんが増えれば増えるほど、医療側も姿勢を正していかなくてはいけないと思っております。

東海林:この病気を持っている人のケアについてのことだと思いますが、そのケアについて、私たち患者として感じることは、まず家族がわかってくれない、これが一番大きくて家庭的に問題が起こっているということもお聞きします。

次に職場にわかってもらいたい、ご近所の方にわかってもらいたいというように患者さんに病気を知らせるだけではなくて、その周囲の方たちにもこの病気をわかってもらいたいということも大きなことではないかと思っています。

若倉:その通りですね。そのような意味でも患者さん友の会というのは、大きな役割を果たすのではないかなと思って、期待しています。

 
 

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